GREEN SPRINGS STORY
第4話
デザイン×ウェルビーイング~街区デザインに込めた想い~(後編)
次世代のしあわせなライフスタイル「ウェルビーイング」について、GREEN SPRINGSに関わるひとびとが、様々な角度から語っていく連載企画です。 第3回は、マスターデザイナーのお二人が登場。ランドスケープを手がける平賀達也さんと、建築を手がける清水卓さん。GREEN SPRINGSの街区デザインに込められた想いを伺いました。
※この記事は2019年7月の取材を基にしています。
(前編はこちら)
SESSION-1
建物と人、まちと人の“縁側”として機能する場所に
清水:僕が今回意識したのは、ハードとソフトというか……中と外の連続性というか、“つながり”をなるべく自然にしたいということ。こういうものって、下手にすると「ザ・プロジェクト」といいますか、できあがっている感じ、固い感じがするんですよ。それぞれの役割が明確に切り替えて見えてしまい、建築の境界はここまでで、舗装材がある場所から違ったりとか、そういうのを街並みで感じることがよくあるんです。そうなってしまうと、この案件は村山社長のオーダーに応えられていないということなんですよね。だから“公園”という観点からやりたかったというのもあります。建築の仕切りがないと言うか、シームレスにまちや広場の方へ広がっていく。逆に建物がまちとランドスケープを受け入れるという要素もあるわけです。そう意味で、まちの“縁側”というコンセプトができあがっていきました。
縁側というのは建物的なスケールでもあるし、この場所と昭和記念公園へ至る間の関係性も縁側ぽいなと。僕みたいに海外に長く住んでいた人間の観点から言うと、縁側ってすごく日本らしいなと思ったんですよ。外でもあるし中でもある。この縁側という言葉が、事業のメタファーになるかなと。
平賀:立飛グループが立川駅の北方方面に持っている土地への“縁側”とも言えますしね。あと先程言ったように、人工地盤下の1F部分に駐車場を作っている分、敷地内の土地は一階分上がっているんですよね。それはすごくチャレンジングなことなんだけど、逆にこうした方が昭和記念公園とのつながりが感じられるんじゃないかと。街区の横を通るサンサンロードの「軸」と、そこからこの街区に入ってくる道路の「軸」も意識し、2階の高さにありつつも、1階分の高さと呼応させる作りにはしてあります。
多分、こういうことは実際に歩いていても気づかなかったりするんです。でもわかりやすい例えを言うと、表参道ってあるでしょう? あれも明治神宮への初日の出の「軸」なんですよね。この場所に来ると生かされている気分になる、この場所が好きだ、そんな風に思う感情はデザインの手の内にあっても、それを気づかれないようにプランニングしないといけない。場所の力を最大化するのがランドスケープデザインです。今回も1階分上げた人工地盤のところは傾斜になっているんですが、南に向いた場所を斜面にしているのは、そこにいると光を受けて気持ちがいいから。 そういう戦略的なことはいろいろと仕込んでいます。
清水:あと僕としては、建築を作るっていうよりは、体験する場を作る……ここでしかない事業、ここでしかない環境空間を作る事を心がけましたね。だから逆に言うと建築の固い存在を“消す”というか……例えば音楽ホールに関しても、ただ独立している箱ではなく、人工地盤やランドスケープともつながりを感じさせるようになっている。さらにカスケードで、軸とのつながりが二次元から三次元化していく。建築のボリュームは大きいけれど、体験としてはどこが建築でどこがランドスケープかがわからない、そういう空間になっています。
平賀:こういうプロジェクトって、例えば1つの建物だけで命題を解こうと思ったら難しいんですよ、建築はあくまでもオーナーがいて成り立っているもので、他の環境との関係性もあるから。でもランドスケープと建築が融合することで、より建築に公共性を持たせることができましたよね。
街区にある樹木の高さとの関係から軒天の高さや幅が導き出されている
SESSION-2
多摩産材に込められたメッセージ
清水:建物や空間のこだわりは……できあがったときに空間を巡ってもらうのが一番いいんですが(笑)例えば、建物の屋根の形状に勾配がかかっているのは、多摩地域の西側に山が見えますよね、そのリズムを表現しています。また、立飛グループが持っている倉庫群のノコギリ形状の屋根というのも意識しました。あとやはり、人工地盤に配された公園の緑の部分と、建築の寸法のシームレス感が大事なんですね。
人間にはまずパーソナルスペースがあり、次にファミリースペースがあり、そしてコミュニティスペースがある。自分とそれらの距離、半径がだんだん広がると街に参加することになっていくわけで。だから建物の軒天の高さ、軒先の寸法、そういうものと人間の比率はとても重要だし、人々のコミュニケーションにも関わってきます。だから中に植える木の高さ1つにしても、このくらいだったら建築とバランスが取れて、透過性もあるし、調和性が取れる環境ができるだろうなと。そういうことを意識して決めていきました。
平賀:街区に植える木も1本1本僕たちが選んで行きましたから。木陰ができたり葉っぱがそよいだり、その下に豊かな植栽があって、今回はそこにアートもあって。それらがシームレスにつながっているというのがまた豊かさに繋がっていくのかなと。
清水:また、建物には多摩産材をかなりの量使用しています。こういうローカルと言うか、多摩地域の力……ポテンシャルをこの多摩産材で表現したいなと。多摩産材のストーリーを建物に入れ込みたい、というのは結構早い段階から考えてました。素材というより、地元のDNAですよね。
平賀:今回、ここで多摩産材を使うというのはすごく重要なことで、他のデベロッパーはすごくびっくりすると思います。事業としてのメッセージでもあるんですよ、立川というのは都心と奥多摩を結ぶ流通の結節点だったわけで。ただ、僕としてはまだまだ課題が多いなというのも感じています。国産木材の消費が少なくなり、森が衰退している今、どうやってそれを解決するかというのは今の建築業界ではなかなか難しい部分もある。
“日本でものをつくり上げる”ということと、衰退した森をどうするかということが、社会的にリンクしきれてないんですよね。今回は大林組の力でなんとかできあがりましたが、木材を使った建物は管理も大変だし、今後多摩産材を支援するような仕組みも必要になってくるわけです。それも含めて“デザイン”なんですよね。混沌とした時代の中で、仕組みも含めてデザインしていく……この案件のトップは、そういう覚悟も持ってスタートしている、だからこそできたプロジェクトなんだろうなと思っています。
清水卓さんが初回の打ち合わせ時から書いてきたメモ。倉庫群のノコギリ屋根のスケッチも
平賀達也
株式会社ランドスケープ・プラス代表取締役/ランドスケープアーキテクト。都市の中で自然とのつながりを感じられる空間づくりを実践。代表実績:二子玉川ライズ、としまエコミューゼタウン、南池袋公園など。
私が思うウェルビーイング
「ウェルビーイングのWellは、We will。1人称じゃない、私たちの“意志”なんです。様々な人が、同じ志をもって生きていける社会が、ウェルビーイングだと思います」
清水卓
株式会社スタジオタクシミズ代表取締役/チーフデザイナー。米国建築設計事務所出身。東京ミッドタウンをはじめ複合施設等のチーフデザイナー。代表実績:東京ミッドタウン、柏の葉ゲートスクエア、札幌赤れんがテラスなど。
私が思うウェルビーイング
こういう仕事をできるということ。3年前には「本当にできるのかな」と思っていましたけど、今となってはもうすぐで完成する、それがちょっと寂しいくらい。人生においてこんなチャンスはなかなかない、そういうことを感じられるのが「ウェルビーイング」だなと。あと、今日みたいなトークをできるということ! なかなかこんな機会はないですから。これもまた僕にとっての「ウェルビーイング」です。