GREEN SPRINGS STORY

第3話

デザイン×ウェルビーイング~街区デザインに込めた想い~(前編)

次世代のしあわせなライフスタイル「ウェルビーイング」について、GREEN SPRINGSに関わるひとびとが、様々な角度から語っていく連載企画です。 第3回は、マスターデザイナーのお二人が登場。ランドスケープを手がける平賀達也さんと、建築を手がける清水卓さん。GREEN SPRINGSの街区デザインに込められた想いを伺いました。
※この記事は2019年7月の取材を基にしています。

SESSION-1

「建築」と「ランドスケープ」、2人のデザイナーの役割

清水:僕がこのプロジェクトに関わるようになったのは、以前立飛ストラテジーラボにアドバイザーとして入っていた方にお声がけいただいたことがきっかけです。その方とは、東京ミッドタウンのお仕事で一緒だったんですが、「面白い案件があるよ。タク、これはマストだよ」と。そこで2016年2月、横山さんをご紹介していただきました。
御存知の通り、この『GREEN SPRINGS』の計画はまちづくりの観点からスタートしたとても夢が大きい話で、村山社長から言われた話も一般的ではないもので。だから正直、最初はあまりイメージができなかったんですね。僕は東京生まれではあるけれどアメリカに住んでいた期間が長く、今も「海外のデザイン事務所の観点から日本の仕事をする」という感覚なんです。拠点を日本に移したのも2008年ですし、もともと立川という土地にも馴染みがなかった。ただ、急いでいるということはわかりました(笑)。普通は着工まで10年~15年ぐらいかけるプロセスを、3年という期限で進めていかなくてはいけないし、立飛グループ自体も不動産開発事業を始めてからは数年しか経ってない。チャレンジングだなと。けれども、ビギナーズマインドがある分、可能性は高いかなと思いました。新鮮に、冷静に仕事をしていけるなと。

平賀:卓さんとは、まだ僕が日建設計という会社にいたときに、名刺交換をさせていただいたことがあって。でもしっかりとお仕事で関わるのは今回が初めてです。

清水:デザインの役割というのは、オーナーの夢を実現することなんです。僕たちの役割は肩書でいうと僕が「建築」、平賀さんが「ランドスケープ」ということになっていますが、この案件に関してはかなりそれぞれの役割がオーバーラップしているんですよね。

平賀:「マスターデザイナー」という役割について説明しておくと、ある権限を与えられているデザイナーのこと。通常、こういったプロジェクトではマスターデザイナーは一人なんです。しかし今回の場合は、卓さんが今言われたように建築とランドスケープが等分に大事であり、2人でマスターデザイナーをやってくれというのがクライアント側からの要望でした。

清水:この案件は、緑と建物が密接しているので、建築側としては「建築」ではなく、公園のプロジェクトだとずっと思っています。かといってランドスケープ=公園、ということではないんですけど。僕がこれまで手掛けてきた、例えば東京ミッドタウンのようなプロジェクトとは観点が違うということです。敷地面積は近いかもしれないけど、あれは完全に建築側から考えた案件。これは逆に、緑から考えた方が、この事業の方針に応えられるかなと思いました。

平賀:僕もアメリカでランドスケープアーキテクトの教育を受けているからわかるんですが、海外の大規模プロジェクトでは、建築家とランドスケープアーキテクト、シティプランナーたちがコラボレーションしていくことが普通なんです。でも今までの日本ではどうも建築家主導というか、トップダウンで全権を委ねていくというやり方が主流だった。ただ社会がこれだけ複雑化して、価値観も多様化し、経済がどう転ぶか分からないときは、多様なデザイナーが関わってコラボレーションしたほうがより良いデザインが生まれると思うんですよ。だから今回は、こういう形になったんです。
「ランドスケープアーキテクト」とは何かというと、地域の自然、地域の土地の力を顕在化するというか、その土地が持っている力を利用して事業を価値化するということ。産業革命以降、人間の力が自然を凌駕してしまい、化石燃料などを使うことで都市公害が起きてしまうようになった。都市に人が集中する一方で、人間が生み出す負荷で人が死んだり、病人が出たりするようになった。そこで地域の自然の力を使い、都市と人間の調停をするものとして、ランドスケープアーキテクトという学問が生まれたんです。一番よく使われる例えが、ニューヨークのセントラルパーク。あれはフレデリック・ロー・オルムステッドという「近代ランドスケープの父」と呼ばれている人の設計なんですね。『GREENSPRINGS』も、街区の中心にちゃんと緑があり、そこに人々の生活、働く場所がある。近代と自然の人間のありようを、プロジェクトとして分かりやすく表現することを目指しています。

  • 清水卓
  • 平賀達也
  • 清水卓、平賀達也

SESSION-2

「東京23区ではできないことをやろう」がコンセプトだった

平賀:もともと、条件的にいろいろと制約がある土地ではあったんです。例えば近くに陸上自衛隊の立川飛行場があるため、航空法による高さの制限があります。その条件の中、もともと立飛グループが所有している広大な土地の再開発も見据えて、立飛ホールディングスが未来へのメッセージを発信するプロジェクトにしたいという想いがある。その上で、法令の定めで駐車場もつくらなくてはいけないから、人工地盤を作り、1階部分を駐車場にする。では、その人工地盤上にどういう世界観をつくり上げるかとなり、建物を外周に配置して、真ん中に広場を作る。ここまではかなり早い段階で決まったんですよ。ただ、例えばそこにたくさん木を植えたほうがいいのか、芝生にして多目的に使える場所にしたほうがいいのか……そういう葛藤はまたその後でもいろいろあり。もっと大きな、マッシヴなものを真ん中に置く、という考え方もなくはなかった。でも人に優しく、快適に思うような空間というのを考えたとき、真ん中に広場があって、その周辺に卓さんが言うところの「縁側」的な空間を作っていく……それがいいだろうと。

清水:建物の配置や緑と床面積のバランスというのは大事で、どんなプロジェクトでも議論になるんです。でも今回、かなり早い段階で「23区では実現できないこと、この4ヘクタールでしかできないこと」をやろうという事業方針が立ち上がりました。それは最終的に「ウェルビーイング」という言葉になったんですが、そういう健康的な環境という観点、ライフスタイルの観点から考えると自然と答えは決まっていったんですよね。建ぺい率をMAXにして建物を建てると単なるワンオブゼムの施設になるし、緑が多すぎると事業的にリスクが大きくなる。だから最終的に決まったこの形は、短期間で検討したにしてもかなり良いバランスだし、立飛グループの発信したい将来的なメッセージというのもマスタープランとして、かなり明確に表すことができたのではと思ってます。

平賀:この街区の真ん中を走る「X軸」、これは飛行場の進入表面という離発着できる角度をモチーフにしたものなんですが、それを思いついたのが大きかったですね。これを見せたとき、みんな「これならいける」と思った瞬間があったんじゃないかな。これは僕の力不足でもあるんですけど、それまではランドスケープと建築、この2つの融合する沸点みたいなものを、うまく形にできていなかったから。卓さんもわかってくれると思うんですけど、マスタープランには「これだ」という揺るぎないバランスというのがあり、そういうのが「降りてくる」瞬間があるんですよね。夜中にふと思いついた発想だったんですけど、それが見つかった気がした。これがデザインの面白さですよね。

平賀:でも本当に、改めて卓さんとこういう話をするのって実は初めてくらいなんですよ。もちろん卓さんからもランドスケープに対して要望はあったし、僕から建築に対してもそう。それはマスターデザイナーとしてのコラボレーションですから。でも僕は卓さんのことをリスペクトしてるし、卓さんも僕のことをリスペクトしてくれてるのがわかった。だから本当にやりやすかったですし、あまり細かい話はしなかったですよね。しなくてもわかるんですよ、2人ともヨーダだから(笑)。言葉というより、お互い絵で会話していたというか。

清水:デザイナーによっても色々なアプローチがあるんですけど、僕も平賀さんも絵を自分で「描く」人なんですよね。そうすると、線一本のクオリティを見るだけで、できるかできないか、信用できるかできないかがわかるんですよ。絵を見れば何を考えているか、何を大事にしているか、何に悩んでいるかがわかるし、そこに言葉は必要ないといいますか……言葉で説明する必要はなかったし、細かい確認をすることとか一度もなかったですよね?

平賀:そう、一度もしたことないんですよ。

清水:そういう環境の中で、この『GREEN SPRINGS』のマスターデザインを作り上げていきました。平賀さんとの仕事は、本当にやりやすかったんですよ。

平賀:環境的に、すごく幸せな仕事だったと思います。結局人間性だと思うんですよ。デザイナーとしてリスペクトしあえるかどうかが大事。卓さんもそう思ってくれてるなら、本当に嬉しいです。

清水:だって正直、だんだんとこういう環境でできるプロジェクトって少ないなということに気づいてくるじゃないですか(笑)。でもね、パートナーというか、一緒に責任を負って動いてくれる方が“できる人”だと、すごく簡単にいうと。

平賀:わかります。正直に言ってしまうと、デザイナーって基本、自己主張が激しくて協調性がない人が多いですから(笑)。あとこのプロジェクトは村山社長がボスとしていてくれて、みんなをすごく盛り上げてくれた。だからこそ僕らはマスターデザインを任せられているけれど、大きな事業の一部分であるということがよくわかっている。チームアップがすごく良かったなと思います。

  • 平賀達也
  • 清水卓、平賀達也
  • スケッチ

    街区の中央でX軸が交わるという現在のプランになる前のスケッチ。
    運動場のような大きな芝生空間がある

  • 清水卓、平賀達也
平賀達也

平賀達也
株式会社ランドスケープ・プラス代表取締役/ランドスケープアーキテクト。都市の中で自然とのつながりを感じられる空間づくりを実践。代表実績:二子玉川ライズ、としまエコミューゼタウン、南池袋公園など。

私が思うウェルビーイング
「ウェルビーイングのWellは、We will。1人称じゃない、私たちの“意志”なんです。様々な人が、同じ志をもって生きていける社会が、ウェルビーイングだと思います」

清水卓

清水卓
株式会社スタジオタクシミズ代表取締役/チーフデザイナー。米国建築設計事務所出身。東京ミッドタウンをはじめ複合施設等のチーフデザイナー。代表実績:東京ミッドタウン、柏の葉ゲートスクエア、札幌赤れんがテラスなど。

私が思うウェルビーイング
こういう仕事をできるということ。3年前には「本当にできるのかな」と思っていましたけど、今となってはもうすぐで完成する、それがちょっと寂しいくらい。人生においてこんなチャンスはなかなかない、そういうことを感じられるのが「ウェルビーイング」だなと。あと、今日みたいなトークをできるということ! なかなかこんな機会はないですから。これもまた僕にとっての「ウェルビーイング」です。