100年つづく、
新しいしあわせを、
立川から世界へ。

2019.08.08

COLUMN

『ウェルビーイング・フォーラムVol.0』第一部基調対談「ウェルビーイングとは何か」開催レポート

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2019年6月25日(火)、パレスホテル立川にて、『ウェルビーイング・フォーラム Vol.0
〜100年つづく、新しいしあわせを、立川から世界へ〜』を開催しました。

 

街区がめざすコンセプト「WELL-BEING(ウェルビーイング)」。
それは心と体が心地よい状態のこと。自然を楽しみ、豊かな感性を育み、心地よく働けること。

第一部は、「ウェルビーイングとは何か」と題し、基調対談を実施。「ウェルビーイング」とは、そもそもどんな価値観なのか? 2020年以降の幸せな暮らしとはどんなものか? 予防医学の観点からウェルビーイングという考え方の重要性を提唱されている石川善樹さんと、地域で豊かに生きることの価値を発信する「ソトコト」編集長・指出一正さんに語っていただきました。

 

<登壇者プロフィール>

石川善樹(予防医学研究者)

1981年生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」「ウェルビーイング」をテーマに、企業や大学と学際的研究を行う。

指出一正(「ソトコト」編集長)

1969年生まれ。ソーシャル・エコに注目した雑誌・月刊「ソトコト」編集長。地方移住に関するセミナーに多数登壇するほか、全国の地域プロジェクトのディレクターを務める。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。

 

1) 予防医学者・石川善樹が語るウェルビーイング

宇宙から地球を見るときに生まれる感情がウェルビーイング

指出 まずは自己紹介と、ウェルビーイングについてのお考えをお話しいただければと思います。

石川 宇宙ステーションにいる宇宙飛行士の方々に「暇な時間は何をしているんですか」と聞くと、ずっと地球を見ているそうです。最初は自分の生まれ育った場所を探すみたいです。それが、だんだん自分が住んでいる国はあそこだな、と引いていって、地球ってひとつなんだなあと。そうすると不思議といろいろな感謝の気持ちが生まれるそうです。ウェルビーイングとは、多分こういうことなんです。いろいろな感情が入り混じっているので、一言では言いづらいのですが、確実なのは、自分は生かされているんだという感覚です。これを次の世代につなげていこうという思いとか、ただそこでぼーっと過ごしているだけで心地よい。おそらく、これが象徴的なウェルビーイング体験です。

もちろん、ウェルビーイングという言葉はまだ聞きなれないと思いますが、これからものすごくよく聞くことになるでしょう。それはなぜかという話をします。

 

「命の長さ」から「命の質」を求める時代へ

石川 まず示したいのは、平均寿命の推移です。西暦1800年、人類全体の平均寿命は29歳でした。これは子どもがたくさん亡くなっていたのが原因です。これが現在は72歳に。2100年には82歳までになるだろうと言われています。

人類はずっと、「病気・貧困・戦争」という三大苦に苦しめられてきました。20世紀に入ってからは、この三大苦は世界中でかなり克服されつつあります。となると、これからは「命の長さ」ではなく、「命の質」に真剣に向き合う時代です。

 

「幸せ」=「ウェルビーイング」の測り方

石川 20世紀に入ってから、私たちは「幸せ」=「ウェルビーイング」を測定することにしました。本当は「幸せ」とか「満足」と言ったほうが一般的にはわかりやすいのですが、専門用語ですね。

この「ウェルビーイング」をどうやって測定するか、カントリルという学者が今から50年くらい前に提案しました。それは凄くシンプルなもので、「人生を梯子みたいなものだとして、最高の生活は10点、最低の生活を0点としたときに、今のあなたはどこにいますか?」と聞くのです。日本人は「6点」、もしくは「8点」と答える人が多いです。「経済的な豊かさを表す指標」であるGDPと同じように、ウェルビーイングも「実感としての豊かさ、幸せというものを反映した指標」ということが、これから徐々に浸透すると思います。

 

上昇するGDP、横ばいのウェルビーイング

石川 実はこのウェルビーイング、戦後日本では、「国民生活選好度調査」として、ずっと測定されていました。その結果はずっと横ばいです。一方、1958年くらいから1987年まで、日本のGDPは右肩上がりに伸びました。このギャップは広がるばかり。経済的に豊かになれば幸せになるはずなのに、これはおかしな話なんです。

GDPという経済的豊かさの指標を開発したサイモン・クズネッツという人が、以前こんな言葉を残しています。「世界には4つの国しかない。先進国、途上国、日本とアルゼンチン」だと。先進国はずっと先進国で、途上国はずっと途上国のまま。しかし当時途上国から先進国になった唯一の国が日本だったんですね。逆に先進国から途上国になった唯一の国がアルゼンチンだった。そのため研究者たちは、日本とアルゼンチンにすごく注目していました。

「戦争・病気・貧困」という「三大苦」が、戦後の日本では解消され、かつ経済的に豊かになった。上下水道の普及や、子どもたちが学校に通っているかなど、社会の進歩というものをあらわす指標は他にもあって、ほとんどが改善したのが20世紀です。それなのに実感としての幸せ、ウェルビーイングは全く変わっていない。私たちは何かを大きく間違えてきたのではないか。こんなに豊かになったのに何故幸せになっていないのでしょうか。

 

どんなことに時間を作っているか、この40年で変わったこと

石川 「日々どんなことに時間を使っていますか」という質問を40年以上続けている研究があり、これを分析してみてわかったことがあります。スマホが登場する前のデータですが、男性は仕事をする時間がまず減りました。代わりに増えたのがテレビとかを見てぼーっとする時間です。女性は家事をする時間が減りました。昔は川で洗濯をしていたとか、すごく時間がかかっていたものが、テクノロジーの発達で減ってきている。代わりに増えたのが仕事をする時間。女性の社会進出ですね。それと、やはりテレビなどを見てぼーっとする時間が増えている。せっかく豊かになったのに、みんなぼーっとしていると。

 

ネガティブな活動は減っても、ポジティブな活動は増えていない

石川 この研究者たちは時間の使い方を3つに分けています。ポジティブな活動、ネガティブな活動、ニュートラルな活動。ほとんどの人にとって仕事や家事というのはネガティブな活動で、その時間が減ったというのは良いことです。では、その分を趣味や学び、友達と会うなどポジティブな活動に使えばいい。ところがこの40年、ポジティブな時間は全然増えていない。代わりにニュートラルな時間、テレビなどを見てぼーっとするというのが増えています。特にお年寄りがそうですし、若者はスマホを見てぼーっとしている。せっかく苦しみは減ったのに、ポジティブなことに時間を費やしていないからウェルビーイングが変わっていない、そういう仮説が一つあるわけです。

こういう状況は実は以前から予測されていました。1960年代に発行された『21世紀への階段』という科学技術庁監修の本があって、そこで40年後の日本はどうなるか様々な予測が書かれています。試験管ベイビーが誕生するだろうとか、携帯電話ができるだろうとか、結構当たっているんです。この中で医学健康に関する項目があって、この本では「長命の退屈」という言葉が使われています。病気とか死との戦いをある程度克服した21世紀の日本人たちは、今度は退屈と言う大問題に出会うだろうと。この退屈を解消する一番手軽な方法がテレビやスマホを見ることなんですね。

 

人類の8割は都市に住むようになる

石川 そんな話をふまえて、この21世紀、そして22世紀に向けて何が課題になってくるか。これは立川市に限らないと思うんですが、人類全体の8割は大都市圏に住むということが指摘されています。東京と大阪がリニアモーターカーで繋がって一つの都市圏になる。これはスーパー・メガリージョンと言われていますが、そうするとみんな都市のマンションに住むようになります。都市に住むとは、小さい箱に閉じ込められて生活をするということです。自動運転という名の小さい箱に閉じ込められて移動をし、職場という名の小さい箱で働いて、疲れたらまたカフェという名の小さい箱に行くわけです。ここでどういう問題があるかというと、まずは退屈。そして孤独です。そして、人生100年と言われていますが、いったい私はいつまで生きるんだろうか。先が長いという大前提が共有されたから、年金数千万円足りないぞというのが大きな問題となる。

 

「退屈・孤独・不安」が22世紀に向けての三大苦

石川 退屈・孤独・不安というのが人類の22世紀に向けての三大苦というものになり、その中でウェルビーイングというものをどう考えるのが、予防医学としては大きな対策の柱ということになっています。実際イギリスでは最近、孤独担当大臣というのができました。ちなみにウェルビーイング担当大臣、幸福担当大臣というのを世界で最初に作った国がドバイです。すべての政策は幸福担当大臣の決裁を得ないと下りません。この政策は国民を幸福にするのかどうか。ウェルビーイングをトップダウン的にやっているのがドバイという国なんです。ドバイはこの数十年、偉大なる国王たちが頑張って途上国から一気に先進国に上り詰めて、そしてその先へ行こうとしている。面白い国ですよ。皆さん是非ドバイに注目してください。

 

与えられるものではなく、一人一人が豊かな暮らしを掘り下げること

石川 おそらく立川市ではこういうことはできないと思います。強いリーダーシップを持った政治家というのは日本、民主主義の国では現れにくい。そうするとボトムアップ的にやるしかない。ウェルビーイングなコミュニティづくりを日本の風土に合う形で、よく実践されているのが、山崎亮さんという方です。実際に山崎さんが手がけた大阪の北花街という地域は、かつては栄えた町だったけれど、今は、地価は下がるしコンビニも買い物する場所もない。普通はこういう住民の方々の不平不満、欲求・要望をまず聞くことから始まるんですが、なぜかうまくいかないことが多い。それを山崎さんは実践の中で感じて、変えたそうです。色々な課題はあるけれどもそれは置いといて、そもそも自分たちはどう生活していきたいのか、ここを掘り下げようと。どこかの誰かが素敵なものを用意してくれて、それに乗っかるというのは、短期的にはいいんです。だけどそれが根付いたものになるためには、受け身で待つのでは駄目なんです。ウェルビーイングというのは与えられるのを待つのではなくて、一人一人が自分にとって豊かな暮らしは何かということに向き合って、参加型で作っていこうよというのが、本質なのではないかと思っています。

 

2)「ソトコト」編集長・指出一正が語るウェルビーイング

広辞苑にもwikipediaにも載っていない言葉「関係人口」

指出 石川さんありがとうございました、とてもいいお話でしたね。このままずっと話してもらっていいんじゃないかと思ったんですが、それでは僕がここに呼ばれている理由がないかもしれません(笑)。僕は「ソトコト」という、社会と環境を考える雑誌の編集長をやっています。「ソトコト」も今年20周年を迎えました。立川市はまだそんなに心配はないだろうと思うんですが、どこもかしこも人口減少で大変だと皆が言っています。でも実は意外とそうでもなくて、なぜそんなことを言えるか。

僕はもう明日には下北半島にいます。今、週2日程度しか東京にいなくて、あとの5日は圧倒的な中山間地域、ツチノコやニホンオオカミがまだまだいそうな場所で過ごしています。さらに週4日ぐらいは各地で講演とトークイベントを行っています。ちょっとやりすぎですね(笑)。このような依頼が僕のところに来る理由は「関係人口」という言葉を国が施策のひとつとして推進することを決めたからです。皆さん知っていますか?新しい言葉です。広辞苑にも載っていません。「イミダス」も Wikipedia も拾えていません。でもこの言葉の提唱者のひとりは僕だと言われています。日本の人口減に対応するためには、しばらくはこの方策が有効だろうと言われています。この言葉の概念も含め、これから僕たちは自分の暮らしている場所や、自分たちが好きな地域と、どう寄り添って暮らしたらいいか。このことについて話していきたいと思います。

 

「関係人口」とは、観光以上移住未満の第3の人口

指出 現在、地域や暮らしに関する国の委員を複数務めています。国土交通省、内閣官房、そして環境省の委員です。ただ、そもそも僕は公共施設のことやコミュニティデザインのことを学術的には学んでいません。まちづくりの専門性が高いということもないでしょう。ただ、地域にいる時間は長い。逆に、国からはそのあたりをおもしろがっていただいているのかもしれません。

僕は自分の中に地域を見るふたつの指標を持っています。森を象徴するイワナという魚、それから田んぼを象徴するタナゴです。日本全国を釣り歩いてわかったのですが、上流から川筋をたどって、肥沃な平野、田園地帯を通るまでの間に、この両方の魚がいる場所というのは、日本ではもう広域では数エリアしか残されていません。そしてこの両方の魚がいるエリアを、実は首都圏の若者たちが発見しているんです。「めっちゃかっこいい」「発酵文化がこんなに揃ってる」「超クリエイティブ」……。そういう若者たちが新しい形で、地域との接触を図っています。彼らも「関係人口」のある種の形態です。「関係人口」とは一言で言うと、「観光以上移住未満の第3の人口」です。観光では物足らず、移住まではいかないけれども、その場所に行って地域づくりやまちづくり、何かイノベーションを起こすようなことができるタイプの若者たちが現れ始めました。もうちょっと固い言葉で言うと、交流人口と定住人口の間ですね。国は「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」の中で、東京一極集中の是正の一つの手として、「関係人口」を重要視しています。いつか東京も関係人口を増やさないといけないタイミングがやってきます。立川もそうなる前に、今からやったほうがいいんじゃないですかね。

 

ふるさとを持たない首都圏の若者たちが地域を変えていく

指出 今10以上の地方の行政区から依頼を受けて、首都圏の若者たちがまだ行ったことのないような地域に関わる講座の監修と講師を務めています。僕が考えているのは村や町や地域が幸せになるための方法です。僕がやっている仕事のすべてが、地域が幸せになればいいと思っているものばかりかもしれません。「ソトコト」というメディアもそのために発信していることが多々あります。

いい例を2つ紹介しましょう。奈良県の下北山村という場所で、まさに関係人口を創出する講座を、首都圏の20代30代の若い人たちが受けてくれています。下北山村は奈良市内の人でもなかなか遠くて行ったことがないと言われていますが、とてもいい場所なんです。池が御神体の「池神社」というのが村の真ん中にあったり、透明な前鬼川の上流まで登ると、鬼の末裔が住んでいる「前鬼」という集落があります。この風景を首都圏の若者たちが発見します。東京の若い人たちが、下北山村のお母さんの手作りのめはり寿司を見て、「めっちゃすごい。神業!」と言う。渋谷や表参道ではなかなか食べられないローカルのハイスペックな食材を使った料理を楽しむわけです。そうすると、「下北山村は、自分の村」と考える若者たちが増えていきます。ちゃんと村のことを考えて、村の人たちが面白いと思うプランを形にしていく。「東京生まれ、東京育ち。お父さんもおじいちゃんもおばあちゃんも東京っ子だった。だからふるさとみたいなものが欲しかった」。そんなことを言って講座を受けてくれる若者たちが、地域を変えていきます。

 

村にゲストハウスやサテライトオフィスができる

指出 詭弁家のような編集長が東京からやってきて、「関係人口」って言っている。関係人口? 何が起きるんだろう……。村のみなさんはそう思っていたかもしれません。でも1年目から10人くらいの東京の男の子や女の子が受講生として現れて、2日、3日、2週間、3週間、多い人は3か月も滞在するようになりました。これまでは村に来るようなタイプではなかった若者たちがどんどんやってくる。そうしたら彼らが泊まれる場所が必要だろう。村の人が年間で3棟、ゲストハウスを作ってくれました。今まで下北山村にはなかったものです。若い人たちが村の未来を一緒に考えてくれるとうれしいな。だったらもっと快適な場所を作ってあげなければ。行政主導ではなく民間で、村の人たちが自分たちのことを考えていかれるスイッチが入ったんですね。

村は、「滞在する若い人たちが働ける場所も必要だろう」と考えて、廃園になった幼稚園舎をリノベーションしてくれました。赤字じゃないかなと心配したんですが杞憂に終わりました。東京のベンチャー企業や、大阪や奈良の老舗のローカルメディアの編集部がここにサテライトオフィスを作ったんです。夜は下北山村のこの場所で村長を囲んで、都会から来た若者たちがご飯を食べる。村はどうなったら面白いか、前向きな未来の話を一緒にするわけです。町のことを「楽しい」と思ってくれる人たちが現れた結果、これが伝播、伝染していきます。地域は地域の未来を考えなくなったら終わりです。「心の過疎」が始まります。市も町も県もみんなそうです。そうやって実は変わっていくところがあるんですね。

 

「関わりしろ」がある地域に

指出 「うちの町自慢」をしているところには、本当に優秀な人は引っかからないかもしれない。でもたとえば「うちの村、子育てを応援してるんだけれど、産科医がいないんだよ」と。大変な問題じゃないですか。じゃあ何か違う形を考えようとか、そういう若者たちが現れる地域を「関わりしろがある地域」といいます。「関わりしろ」とは、これも全くの造語で僕が勝手に言っていますが、のりしろや伸びしろと同じで、ツルツルピカピカした場所には関わる楽しみが現れません。むしろ、ザラザラした場所に人が集まります。町や村もそうです。立川GREEN SPRINGSが、そういう「関わりしろ」満点の場所であることを僕は楽しみにしています。

 

村の人たちのために開いた「スナックミルキー」

指出 もうひとつだけ中山間地域の話をします。奈良県の天川村という修験道で有名な村、その洞川温泉の地区で、名古屋の若者たちが地域に関わりを見つける講座をやりました。うちは財政も厳しいし、地域のお金がどんどん外に出て行くのがもったいない、こういうことを村の人が臆面もなく話してくれると、若者は大人を信用します。そんな関係ができたところで、名古屋の若者たちに村の人たちが喜ぶプロジェクトをやろうと提案します。そして開かれたのが“スナック”です。廃業した旅館をリノベーションしたスペースを借りて開かれたそのスナックには、「お手並み拝見!」といって、最初に地元の区長さんや旦那衆が興味津々、心配半分でやってきました。でも、楽しい。それはそうです。ご自身の娘さんやお孫さんと同世代の子たちがこの町に来て、見よう見まねでスナックを開いてくれた。おつまみは甘い「しるこサンド」、お酒も名古屋のもの。夜も更けるにつれ平日だったのに、なんと80名以上の人たちが来てしまいました。U I ターンしてきた若者たちが「こういう場所が欲しかったんです」と。一晩みんなで盛り上がりました。

 

豆腐のケーキでハッピーバースデー

指出 洞川温泉へ旅行に来ていたカップルが、たまたま賑やかだったスナックミルキーにやってきました。「今日は彼女の誕生日なんです」と。そしたら区長さんとスナックミルキーのママとチーママがヒソヒソ話をして、バースデーケーキを贈りました。けれどもただのケーキではありません。豆腐です。当たり前です。立川の駅前みたいに24時間コンビニがあるわけではないんです。雑貨屋も開いていない。夜10時過ぎていますからね。街道筋の豆腐屋さんにお願いをして豆腐を一丁分けてもらって、そこにろうそくを3本立てて、みんなでバースデーソングを歌いました。

このスナックミルキー。区長さんが大変喜んでくれて、定期的に天川村や日本橋、京都や岡崎など、いろいろな場所で開かれるようになりました。スナックミルキーを開いた女の子たちはこの場所のルーツを語ります。「天川村という修験道で有名な場所で……」。その話を聞いた次の未来をつくる若い人たちが、「ちょっと天川村行ってみたいな」「僕たちの街でもスナックやってみたいな」と、静かに伝播が広まりました。

肩肘を張らずに街で面白いことをやってみたら、町の人が喜んでくれて、仲間が増えて、その街に賑やかさが生まれた。たまたま講座を受けてくれた名古屋の二人の女の子たちが、たまたま来た天川村でやった結果、新しい幸せが生まれました。きっとこれが関係人口の作用です 。

石川さんがお話ししてくださったウェルビーイングの問いかけに、僕はどんな形で返事をしたらいいかなと思ったんですが、幸せの粒みたいなものをどうやって作ればいいか。それは誰かから与えられるものでもなく着飾ってやるものでもなく、廃業した旅館をちょっと借りただけでも人は面白さを作り出せる。そんなことを僕は天川村と「関係人口」のみなさんから学びました。

 

3)石川善樹&指出一正 ウェルビーイングをめぐる対談

他人を幸せにすることが自分が幸せになる近道

指出 まず石川さんは僕を見て「このおじさんは一体何を話すんだ」と思ったでしょうが、どうですか?この話は果たしてウェルビーイングに少しは繋がっていますか?

石川 他人を幸せにするということが、一番自分が幸せになる近道なんですよね。ものすごく御意です。今日、この会場に来る途中に、小さい公園があったんですよ。そこに70代ぐらいの男性が5〜6人集まって、昼間からお酒を飲まれている。そこは木で囲まれていて周りから見えないんです。日本人って昼からお酒飲もうとすると、大体ラベルを隠すんですよ。でもあそこだったら周りから見られないから、隠さずに飲んでいる。そもそも何でここで飲んでいるんだろうかとか、このおじいさんに関わるためにはどうしたらいいだろうかとか、僕はそういうことをいつも考えながら生きているんですけれども。

指出 いいですね。

石川 要は、周りの人に興味を持とうよ、ということだと思うんですね。周りの人に興味を持って、この人が幸せであるためには何かができないか。そんな感情が元なんじゃないか、と思うんです。

指出 石川さんの予防医学の分野の中で話された内容と通じると思うんですけれども、社会や環境、若い人たちの地域づくりやコミュニティというものに触れていると、利他的なものとか、ペイイットフォワード、新しい経済とか社会の中で「意外とそのほうがいいかもな」と思っている人が出てきたな、と。自分が投げたものが見返りとして戻ってくるわけではないけれど、それが意外と良いという感覚ってありますよね。

 

赤の他人に餌をやる哺乳類は人間だけ

石川 今のと直接関係するかどうかは分かりませんが、400種類ぐらいいる哺乳類の中で、人間だけがやる行動が、赤の他人に餌をやることなんです。

指出 なるほど。「利他」ですね、まさに。

石川 他の動物はやらないんです。ゆえに長距離移動が可能になったと言われているんです。どこかへ移動してもそこで人間に出会えればエサをもらえる。

指出 延命できる仕組みになっているんですね。

石川 長距離移動をして、知恵の交換があって、人類が発達したという話があって。見ず知らずの赤の他人に手を差し伸べるということは、脳内で幸せ物質が出ないとできないんですよ。だって怖いじゃないですか、知らない人って。

指出 そうですね。

 

「歌とダンスと酒」でオキシトシンを出す

石川 本来は人と人との間には距離があって、怖いなあというのがまず先立つものですよね。僕が今日見かけたお酒を飲んでいる70代の方も、人によっては怖いと思うんですよ。その怖さを取り除くための手法というのが「歌とダンスと酒」なんです。アフリカの部族が、日本人テレビクルーを歌って踊って迎えてくれるシーンってよくありませんか。

指出 ああ、なるほど。ありますね。

石川 歌って踊ると、脳内からオキシトシンという、人を信頼するホルモンが出ることが知られています。これは酒を飲んでも出るんです。だからさっきご紹介されていた誕生日会でもハッピーバースデーを歌ったでしょう。歌って踊って酒を飲むというのは、人類が作り出した仲良くなるための最強の武器なんです。

指出 石川さんからとても良い提案が出ましたね。オキシトシンがいかに出る場所にするか。GREEN SPRINGSはオキシトシンの場所、みたいな。

石川 まああまり酒を飲まれても困るでしょうけれども(笑)。でもお互いに気にかけるような風土というのが生まれてくるんだと思います。それが結果自分に返ってくると。

 

駅前のコインパーキングをキャンプ場に変えた「おやまちプロジェクト」

指出 僕が東京で今注目しているのが、東急大井町線の尾山台という駅なんですね。商店街で洋品店を経営されている高野雄太さんという方と、東京都市大学の坂倉杏介先生が中心になり、「おやまちプロジェクト」というのを立ち上げて、東京都市大学の学生と商店街の皆さんが出会える機会と場所を作ったんです。駅前のコインパーキングをキャンプ場に変えた企画も生まれました。そんな光景見たことないじゃないですか。だから終電で帰ってきた人が、「一体ここで何をやっているんですか」と坂倉先生に聞く。これは大きな接触なんです。尾山台には結構な数の人がいるわけですけれども、ほとんどの人はいつもルーティンで乗る電車は決まっている。8時32分の電車に乗る人と、8時37分の電車に乗る人たちは出会わない。森と一緒ですよね。深夜はツキノワグマが歩いているけれども、朝はリスが歩いていて両者は出会わない。でもそれをわざとぶつける実験をした結果、とんでもないコミュニティが生まれちゃったんです。それは東京という場所だからこそできること。立川でも、普段は出会わない人たちが、5分後の未来から来たり、5分後の過去を歩いていたりするわけです。

 

人と人とが出会うクロスポイント

石川 接点を古来日本人がどこから作ってきたかって言うと、「辻」なんですよね。辻というのは道と道が交差するクロスポイントなんですけれども。作業を終えて夕方ぐらいに帰る時、人と人が歩いてくるとそこでぶつかるんですね。そこで焚き火をして、焼き芋なんかを食べながら、いろんなことを話す。現代にそのようなクロスポイントをどう作るのか、歌舞伎町を設計した人のお孫さんに話を聞いたことがあるんですが、歌舞伎町ってT字路がすごく多いんですよ。向こうから人が来るのが見えるとすっと避けちゃうんだけれど、T字路だと根元まで行かないと誰が来るのか分からない。それで出会いとかにぎわいを演出したそうです。

指出 なるほど。よくできていますね。

石川 だから今作られているGREEN SPRINGSは、これからお話があると思うんですけど、クロスポイントというか「X」になっているんですよね。辻みたいな場所がまさにあるんです。そういうところを活用して、いろんな人が出会うような仕掛けをして欲しいですね。

 

「観光案内所」ではなく、「関係案内所」を

指出 僕は地域でご年配の方に話を聞く機会が多々あるんですけれども、今のところはみなさんまだ困ってないんです。今幸せに住んでいられるのは、地域には自分の居場所や出番というものが担保されているからなんです。大きな街は、たくさんの人の中だと、安全かもしれないけれども、自分の居場所や出番というものが作りづらい。どの規模感の街でも、居場所や出番があれば、町の幸せ度は上がるんじゃないかなと思っています。

地域の中の人と外の人とが出会い、ときに居場所や出番を感じさせ、つながりを深めていく場所、これを「関係案内所」と僕は呼んでいます。今日観光協会の方がいたらごめんなさい、観光案内所なんていらないから、人と人との関係を案内する「関係案内所」を作れと。これはもう国の指針に盛り込まれています。そういう機能があるといいのかもしれないなと、石川さんのお話を聞いて思いました。

石川 僕はこの GREEN SPRINGSがどういう場になってほしいかなと考えた時に、サグラダ・ファミリアみたいになったら面白いんじゃないかなと思ったんですね(笑)。

指出 それは完成が長くにわたって担保されないということですか?(笑)

石川 宮沢賢治が「永遠の未完成、これ完成なり」という言葉を遺していましたけど、ガウディという人が何であんなに長く作り続けられる建築を作ったかと言うと、第一に昔バルセロナという街は貧しかったんですね。建築をし続ける限りは仕事があるわけです。あと、今の時代、完成されたものってすぐ飽きるんです。未完成のものがずっとあって、来るたびに変化しているなというのは、エンターテインメントとして成立していると思うんですよ。永遠のベータ版といいますか。そういう仕掛けがあると面白いかなと。

指出 いいですね、建物のハード面での完成や未完成というよりも、そこで醸成されていくものが完成されないということですよね。

石川 そうそう。

指出 人の流れであったり、新しい試みであったり。まちづくりは今「半開き」が大事だと言われています。コミュニティもそうなんですけれども、半分は開いていた方が新しい人がやってくる。僕の中ではサグラダ・ファミリアか横浜駅かって思ったんですけど(笑)。サグラダ・ファミリアも完成しますしね。横浜駅はいつ完成するんだろう。

 

ウェルビーイングを高めるための2つのポイント

指出 せっかくなので、皆さんも聞きたいことがあったら。

質問者 ウェルビーイングの数値が横ばいになっているグラフがありましたよね。あれはどうやったら上げていけるんですか?いますごく惜しいところにいると思うんです。

石川 まず経済的な事と言うのはそんなに関係なさそうだなとわかりますよね。じゃあなんだと言うとき、2つポイントがあると言われています。1つは人と人とのつながりが豊かになること。日本人は今、家族以外で親しい付き合いのある人がいるかどうかというのが、先進国の中でも圧倒的に最下位なんです。もう1つは何かしら創造的な活動に従事すること。何でもいいんです。バラを栽培するとか、キルトを作るとか、イベントを自ら仕掛けてみるとか。受け身にならずに自ら主体的に何かを作り出すこと。ウェルビーイングを高めるのは「つながり」と「創造性」ですね。

でもそういう話は実はどうでもよくて、実は「自分はどれだけ周りの人達のウェルビーイングに貢献できているだろうか」ということ。いつからか日本人はそこを考えることを忘れたんじゃないかなと思います。特に都市部に住んでいると、自分のことだけで精一杯だから。昼間から酒を飲んでいるおじいちゃん達に関わり合いを持つなんてことは、考えもしなくなってしまう。絶対面白いはずなんです、5分だけでも話をしたら。

 

「関係案内所」にはハブになる人が必要

質問者 先ほど「関係案内所」という話がありましたが、具体的にイメージが分かりづらく、もっとこういう場所があったらいい、こうしたらいいというのがあると助かります。

指出 「関係案内所」は各地で増えていて、宮城県の山元町や山形県の新庄市など。例えば宮崎県の新富町にある「こゆ財団」というところは、若い人たちが集まって人と人との関係を広げていった結果、地域を育てるソーシャルビジネスが広がり、ふるさと納税がとんでもない額になったといういい例があります。

「プレイスメーキング」という言葉が流行って、人が集まれる場所を作り出すのが幸せと考える若い人たちが現れた。コワーキングでもシェアスペースでも閲覧室でもいいんですけれど、そういう場所というのは意識的に作ることができるんですね。新しい場所でも、リノベーションをした場所でも、立川にある昔ながらの小さいコーヒー屋さんでも、ラーメン屋さんでもいいんです。そこに「関係を案内できる人」がいることが必要で。ハブになっているタイプの人が立川にも必ずいるはずです。そういった方に立ってもらう。

町に行って最初に出会えるのって会社でいうと「広報担当」の人なんです。でも、経理や総務の人には会えずに帰っていくんです。全員が広報担当の人とつながったって表層的でよそよそしいだけなんです。石川さんがさっきおっしゃったみたいにつながりがない。あの町の名物おじさんというのは、誰もが会おうとする。要はセカンドコンタクト、サードコンタクトの人達に会いたいのに、そこまで案内してくれる空間や場所がないのが日本の問題なんです。その周りの怖いお父さんや、おちゃめなお母さんに会うために、「関係案内所」があったほうが、新しい人たちの交歓が生まれるんじゃないかなと思っています。実際そうやっているところはたくさんあります。

石川 聞いていてちょっと思ったんですが、私の祖父母が広島でずっと保護司をやっていたんです。刑務所から出た人たちの社会復帰を手伝う人たちですね。そろばん教室をやっていたので刑務所でそろばんを教えたり、おじいちゃんは手品師で「善樹、刑務所に入っている人はみんないい人だな」なんて言ってたり(笑)。まあやむにやまれぬ事情で入っている人もいるんですよね。そんな祖父母はまさに、刑務所に入っていた方々と、町の方々の関係を作っている。以前からそういうことをやっている人はいたと思うんです。それをわかりやすく外に見えるようにしようと。

指出 おっしゃる通りです。だから世代は全世代横断型でいいと思います。10代の関係案内人や70代もいる。「関係案内所」を作るためには、そういうハブになる人達を見つけることですね。

 

 

 

 

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